私が生まれた日/池波正太郎著

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私が生まれた日

「私が生まれた日」 池波正太郎(1923-1990)著
副題:池波正太郎自選随筆集(1)
1996年7月1日 朝日より文庫化初版 ¥680+税

 時代小説の大家として名を馳せた人だが、私はこの作家の小説を読んだことはない。ただ、親から「人的な関係において近しい人物である」ことを聞いていた。そのことが脳裏にあったため、「私が生まれた日」というタイトルの随筆ならば、ひょっとして親から聞いたことが判然とするのではないかと思い、入手した。

 思惑は当たって、親から聞いていたこの作家との関係が明らかになり、意図は達せられた。それについてはプライバシーの範疇なので、ここには記さない。

 本書は国内外への旅、都内を中心とする散策、下町の風情、知己、家族のことなどに触れつつも、食べ物を説明、紹介するのが主なテーマで、全部で62篇のエッセイが週刊誌、月間誌、新聞紙上に掲載されたものからピックアップされてまとめられている。

 海外では、フランスが一番のお気に入りだったらしく、カフェレストランやホテルとともに、そこここで働く少女や青年のことなどにも触れている。

 昭和初期の風景が彷彿とし、蘇るようなエッセイのなかに、「どの家庭にも老人がい、夫婦がい、子供がいた。老人のいない家は家とは思われなかった」との言葉からは、かつては日本も三世代が一緒に暮らしていたことが判る。

 バリ島にも私より10年ほど前に訪問しており、夜の闇の濃さに喫驚しているが、2010年の今では、コンビ二があちこちに建ち、店の前にはガキどもがしゃがみこんで、まるで日本の風景と化している事実を知ったら、さぞやびっくりするだろう。

 池波正太郎は旧制の小学校しか出ていず、それでいながらあれだけの小説を、それも時代考証を必要とする時代ものを多く扱い得たことは、独学がときに学校教育を凌駕することがあり得ることを示唆するものだ。


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