ソロスは警告する/ジョージ・ソロス著

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ソロスは警告する

「ソロスは警告する」 ジョージ・ソロス(1930年ハンガリー生まれ/ユダヤ系アメリカ人)著
訳者:徳川家広/解説:松藤民輔
原書名:The New Paradigm for Financial Markets
帯広告:大恐慌は予告されていた/今何が起こっているか、これから何が起こるのか
講談社出版  2008年9月初版

 著者はアメリカに移住、帰化後、金融市場を経験し、独立後には1兆3000億円を稼いだ投資家として全米に名を馳せた男であり、一種のカリスマを備えた人物として、この世界で脚光を浴びている。一方、解説を担当した松藤民輔は日米の証券業界をわたり歩き、この道では既に知られた男性で、日本投資家のあいだではやはりカリスマとの評判をとっている。

 本書の帯広告に惹かれて入手したものの、内容は解説者が言うように、「通貨、債権、株式に限定された著作」であり、同時に、哲学的思考から案出された「再帰法」の解説に力点が置かれたもので、何かに成功した人物がしばしば見せる自己肥大、自惚れ、自己顕示欲が随所に現出する。

 とはいえ、なかには「なるほど」と思うに足る言説もあり、以下はそういう中からピックアップした内容だけを列記する:(言葉や文章については、私の勝手な裁量で若干手直しをした。また、(  )内は私の意見。

1.現在、1929年の世界恐慌を凌ぐ「超バブル」の崩壊が訪れ、ドルを国際機軸通貨とした信用膨張の時代が終焉を迎えようとしている。原因は、信用マネーの飽くなき肥大化と市場の自由放任主義にあり、今、投資市場は歴史的な転換点にきている。

2.国際危機に対する理解不足が誤解を生み、危機を増幅させ、市場の過熱を抑止できなかったことが恐慌に至った根本的な理由。

 (根本的な理由は「デリヴァティブ」や「レバリッジ」などに代表される過剰な損得に結果する投機派生商品をあまりに積極的に全世界市場で売買の対象にしたことから問題が発生。ニつの商品ともにあまりにもギャンブルの色彩が強い)。

3.人間の世界理解と現実的な世界のありようとは一致しない。株価も同じことで、投資者の判断や予測と実際の株価の動きはしばしば異なる。市場における参加者はもとより、市場を監督、管理、規制する金融当局の判断にも不確実性が排除しきれない。こうした現実を理解しない限り、市場の改善は不可能。

 株式市場の動きに確実性が生まれたら、誰も損をしなくなり、「Speculation」(思惑)ではなくなってしまう。(言っている意味がよく解らない。「speculationが失われたら相場は成立しない」という理屈は解るけれども、経済活動というより、賭博に近い商品をつくってこれを世界に売りまくったあげく、破綻をきたしたプロセスを見ていると、Speculationこそが明らかに資本主義というもののもつ一つの側面であることは否定できず、いわば「拝金主義者のゲーム」であって、それに負けたからといって、政府に財政面での援助を要請する立場など得て勝手で、国民をバカにした話)。

4.人間の社会現象は自然現象とは異なり、因果の連鎖がはるかに複雑で、込み入っている。一つの事実に対する理解や解釈が人によって異なるばかりでなく、時間の経過によってさらに変化するから、事実を正確に捉えきれない。人間の誤解や錯誤がどれほどの被害をもたらし得るかを、現在の金融危機は鮮やかに例証している。

 (とはいえ、それが投資や投機について回るリスクというものであり、投資家はリスクを承知で投資を行なっている。問題は上記(2)で述べられた過剰な損得を生むアメリカ産の投機にあり、石油が乱高下したのもそれが原因)。

5.ナチズムもマルクス主義も、現実を歪んだ形で解釈しているという点では、同質であり、そのような解釈を社会に適用しようとすれば、必ず暴力的な強制に依存することになる。「究極の心理は理性によっては到達し得ない」という、カール・ポパーの言葉には真がある。(作者はポパーの信奉者)。

6.金融市場においては、すべての変数が均衡点に向かうことはなく、むしろ均衡を喪失したように、どんな方向にも動く可能性を秘め、くりかえし出現するパターンはあり得るものの、実際の通過点はどれ一つとして同じではなく、しかも不確実。

7.人間が入手し得る知識は不完全であり、行動の指針としては不十分で、全面的に依存することには危険が伴う。つまり、人間は不完全な知識に基づいて決断せざるを得ないからだ。これが「可謬性」である。人間の情報処理能力には限界がある一方で、処理されるべき情報は無限に存在する。

8.金融市場主義とは、市場を自由放任することで、現在多くの国で実施されているが、この主義は市場というものは常に均衡に向かって収斂(しゅうれん)していくという信念に基づいている。この自由放任主義は有害さにおいて、マルクス主義の教義に劣らない。市場は理論的な均衡値に接近するのと同じ頻度でそこから遠去かりもする。場合によっては、自滅的な過程に突入する。

 (作者も、マルクスも、金融市場を支配しているのも、貴金属商品のシンジケートも、株式市場というものを考えた人も、みんなユダヤ人である。資本市場が崩壊すれば、人は再びマルクス主義を選ぶ可能性がある)。

9.金融市場は景気後退を正確に予測することはできないが、景気後退の引き金となることは可能。問題は市場を操作することが可能であるという点にある。

10.現在のパラダイムは自らの欠陥や誤解がとんでもない結果をもたらし得る可能性を受け容れようとせず、その傲慢さこそが現在の金融危機の根っこにある。今回の危機は世界資本主義システムそのものが崩壊の一歩手前にあり、一つの時代の終焉を告げている。

11.現在のバブルは「超」の字がつく複雑にして怪奇な危機。中国、インド、産油国、一次産品輸出国などの新興経済大国の経済力がまず存在し、変動相場制、ドル本位制などがごちゃごちゃに絡まった国際通貨体制、そしてアメリカ以外の国々で進行しつつある「ドル離れ」を考慮しないと、現在の世界経済の実態は理解できない。

12.サブ・プライムローンでは2007年の春に、住宅ローン大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャルが倒産したが、この事実を深刻に捉えない企業がアメリカはもとより世界中にあった。ところが、同年の8月に入るや、住宅価格の加速度的下落に加えて、市場のある分野から別の分野へと、文字通り、燎原の炎のように不良債権が飛び火し、サブ・プライムローンを購入した銀行、保険会社、証券会社はもとより、地球上の一国から他国へと連鎖していった。「超バブル」における支配的なトレンドは信用創造の手法が再現なく洗練された形で進行していくことで、投資家は巧みに誘導され、市場への誤解が新たな誤解を重ねるという事態が生ずる。市場メカニズムに対する過度の信頼にも罪がある。

 (リーダーシップをとって、過剰に信頼させたのはアメリカであり、世界に大迷惑をかけたのもアメリカである。欧州では一国が倒産したというケースすら生じているし、ユーロ圏に入りたくて入れず、今回の金融危機で対米ドル通貨が20%~30%の下落をしている東欧諸国もあり、仕事を失った人々は列をつくって職業安定書参りをしている。ユーロ圏の構築が成功するか否かは即断を許さない)。

13.金融システムが危機に陥り、不況が訪れるようになるたびに、金融当局は破綻しかかった金融機関を国税を使って救済したり、景気刺激を行ったりという介入を行うが、その結果として、金融機関には融資残高がひたすら増大する。

 (自由放任主義に徹してきた国がなぜ突然のように援助、救済するのか、不可解)。

14.国際金融資本は特権的な立場に置かれ、他国による規制や課税があれば、その国を除外して資金を回転させるから、どの国もなされるがままの状態に陥る。

 (アメリカは特別、アメリカは例外といった傲慢さが鼻持ちならない)。

 とはいえ、金融のグローバル化は世界中の誰にとっても公平な競争の機会を提供することはない。アメリカを中心とする先進諸国の金融業界が危機に遭えば、IMFでも世界銀行でも、アメリカの利害を優先する。財政赤字を補うため、アメリカ政府が発行した財務省証券などの国公債に黒字諸国が巨額の外貨準備資金を投資するおかげで、アメリカの経常収支は補填される。これも信用膨張の主たる源として機能することになる。

 (日本は本年11月にIMFに対し、10兆円の融資を決定した。この金はアメリカの金融市場を救うためのものではなく、途上国、新興諸国への救済であり、アメリカが横から手を出すことは許容できない)。

15.アメリカの経常収支の赤字は世界中からモノを買い続けるアメリカ人の旺盛な消費意欲であり、アメリカの消費者こそが世界経済を動かすエンジンであった。その消費意欲が大手企業、金融企業、投資企業などの倒産や買収によって、馘首が継続するという事態を招来し、消費意欲は急激にしぼんでいる。アメリカへの輸出を主な収入源としている国は未曾有の危機に見舞われかねない。

 (他国に門戸開放を強制しておきながら、状況が変化したら、事前の通告さえなく、玉蜀黍、小麦、大豆などを輸出ストップする姿勢は、どう理解したらいいんだ? アメリカの言うTTPなどにつきあっていられまい)。

16.日を追うごとに、国際金融システムが現在の危機を乗り越えられると考えるべき根拠は失われている。市場の原理は各国の金融当局の力をもってしても、今度ばかりは問題を解決する手法とはならない。銀行から実物経済への資金の流れは、かつてないほどの深刻さで、かつてないほど長期に途絶えており、しかも、これは各国中央銀行が銀行システムに資金を注ぎ込んでいるにも拘わらずの現象である。

17.超バブルがここまで育ってしまったベースがもつ欠陥は、モラル・ハザード、世界経済のエンジンとしてのアメリカ経済の悪化、信用膨張から収縮への転換、この三つと密接に関係している。これら三要素の欠陥が超バブルに特異なパワーを与えている。

18.金融機関の危機的状況にはまだ潜在している部分がある。ヨーロッパ(アイスランド、ギリシャ、ポルトガル、スペイン)も、豪州も、(日本、韓国、台湾も)今回の金融危機ではアメリカと同じくらい過酷なダメージをこうむっている。自国で深刻な不動産バブルが発生したスペインと、重要な金融センターであるロンドンを擁するイギリスは特に危ない。ヨーロッパの銀行や年金基金はアメリカの機関投資家以上に大量の怪しげな資産をつかまされている。ユーロとポンドの過大な評価は実物経済を痛打するだろう。

 (ユーロが現実として、対米ドルに対してすら13%も下落している)。

19.中国の経済成長は、一時的に低迷してもマイナスの実質金利に支えられた中国バブルはこれからも育ち続ける可能性がある。

 (中国の雑貨の主な輸出先はアメリカ、カナダ、日本ではないのか。だとすれば、アメリカの消費者が買い控えすることが必致である以上、中国の先行きにも暗雲が垂れ込めていると見るのが妥当ではないか。日本でも、中国産品の危険物混入の疑惑から、買い控えが続いているばかりか、中国から逃げ出す企業まで出ている。今後、中国を襲う困難は、格差の拡大からの内紛、砂漠化拡大による商業地区への被害、産業排気物垂れ流しから死傷者が数多く出ることからの政府不信。中国政府は軍事力の強化に金を使うより、内部の改善に立ち向かうほうが賢明ではなかろうか)。

19.湾岸諸国、サウジアラビア、クエート、バーレーン、イラク、イラン、リビア、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦などの成長のダイナミックスは世界経済の低迷に打ち勝つだけの地力を備えている。(溜め込んだドルは暴落している)。

 (化石燃料を使わずにプラスチックが製造可能だったり、ガソリンを使わずに自動車を動かせたりという技術面の発達があるように、今後、石油を使わずにすむ技術があらゆる分野で研究されることは、むしろ必然であり、「石油よ、さようなら」といえる日が必ずやって来ると私は信じている)。

20.国際為替はどんなものにも欠点がある。固定為替相場はあまりに硬直的で崩壊しやすい。変動相場制は変動が激しすぎる。グローバル化した経済と、国家主権の原則とのあいだには明らかな不整合が存在する。

 21.アメリカは不況と急激なドル離れという二つの難問に直面している。アメリカの住宅価格の下落と家計の累積債務の巨額さに、国内銀行界の損失と見通しの不透明さが加わって、アメリカ経済は加速度的に衰退しそうである。もし、中国がEU諸国との摩擦を回避すべく人民元を切り上げれば、アメリカ国内の中国製品の価格も上昇し、すでに苦境に立たされている消費者は一層ひどい目に遭うだろう。

 (人民元の切り上げはかねてアメリカ政府が中国政府に対し、強請していることだ)。

22.現在の金融危機が恐慌寸前の状態にあり、誰もがこの先どうなるかを知りたがっているが、実は自分にも今後何が起こるか、はっきりとは判らない。私たちは自分たちの世界をどう統治すべきか、という問いについては未だに確かな答えを示せずにいる。(自分の国が発した危機であり、作者は投機で大もうけした人物ではないか。稼いだ金をすべて金融機関への支援に回すのが妥当ではないのか)。

 以上が私が個人的に学んだポイントだが、著作が多くのページを割いた「回帰性の理論」、「大儲けした体験談」、「多くの哲学者、経済学者らの言説からの引用」などは、飛ばして読んだことを披瀝しておく。

 また、中国、インドの将来性を過大評価している点にも異論がある。とくに中国の産業廃棄物の垂れ流しに依拠する病原菌の蔓延の可能性、垂れ流しの近隣他国への影響、新らしい鳥インフルエンザのタイプが発生する可能性、ものづくりに関する他社のパテント無視の姿勢、農村部と都会との途方もない富のギャップ、支配者間にはびこる賄賂の横行などについて著者は触れていないが、触れられるほどには、中国を理解していないのではないかと推測される。

 正直に言えば、拙(つたな)い哲学への固執ばかりが目立ち、目ざわりだった。ただ、世界がこれまでの仕組みから変革を迫られていることは作者の言うとおりだと思うし、その深刻さが未曾有のものになることも確か。


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