サルが食いかけでエサを捨てる理由/野村潤一郎著

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「サルが食いかけでエサを捨てる理由」 野村潤一郎著
ちくまプリマー新書  2006年5月初版  ¥700

 「すべての生物が地球にとって欠くことのできないレギュラーメンバー。ひとつでも欠けると連鎖反応を呼び、何百もの生物が消滅する。一日に800種が死滅しているのが現状。現代は地球はじまって以来の大量絶滅時代である」というショッキングな文章から、本書ははじまる。

 「地球の生態系は複雑で、多種の生物で構成されている。一種ずつが一つの歯車として生存し、互いに関与しながら環境バランスをとっている」といい、著者は生物間の連鎖の関係を具体的な例を引きつつ細かく解説する。

 「地球の生物はすべて炭素系の構造。軟体動物(骨格がなく粘膜で覆われている)、脊椎動物(人間を含めた背骨をもつ種)、節足動物(昆虫類)の三種に大きく分類できる。ネズミ以上の高等動物は首の骨が七つ、基本的な身体構成、分子構造は窒素型生物という原子構造学的特徴をもち、骨格も内臓の仕組みも互いにほとんど変わらず、人間だけが特別なのではない。どの種も口からものを食べ、肛門から排泄するというホース型パターンは同じ。

 「地球にはまず植物が存在してはじめて光合成を行われ、おかげで大気中に酸素が増え、動物が誕生し、進化できる素地ができあがった。動物は植物の蜜、果実、葉などの栄養をもらう代わりに、動けない植物の種を運び、受粉に寄与する」。

 「海の生物はクラゲのような解放血管系とは別に、海水を膜で取り込み、海水を再利用する方法を採る。これが血管の原型で、閉鎖血管という。この原始的な血管ができると、腎臓や肺が形成され、海水を体内で浄化する機能をもち、いわゆる血液をつくることに成功する。ために、血液と海水の組成は非常に似通っている。さらに、酸素を補完すべく、エラを捨て、浮き袋に変化させ、それを肺に変化させることに成功した動物が陸地に上がった」。

 「進化は基本的に環境適応だから徐々に起こるわけではなく、環境の変化があれば生存を可能にすべく、急速に適応進化が起こる」。

 「人間、サル、モグラ、コウモリには処女膜があり、コウモリやサルのオスの性器は人間の性器にそっくり」。

 「チワワが土佐犬に本気で喧嘩を売ることがあるのはチワワが改良種であるため、怖いものを怖いと認識するための本能が少し壊れている可能性がある」。

 「人間が他の動物と違う点は、突発的に大天才が出現することで、他の動物にはこういうことは起こりえない。」

 「人間は上等な脳を持っているが、自然界に対する思いやりに欠けているし、自然を観察する余裕がない。発明や発見で新しい文明の利器を使いはじめると、利器がどんなに環境破壊しても、その事実を認識できても、使うことをやめられない。そういう意味では人間が一番バカではないのか」。

 「地球上の生物の98%が昆虫であり、地球は『昆虫の星』だといっていい。むしろ、人間は異端児であり、人間が地球から姿を消しても生物たちはやっていけるが、昆虫が絶滅したら、地球上の生物はすべて死に絶える」。

 「魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類は内骨格生物といって、進化の上ではひと続きの親戚。ところが、昆虫だけは外骨格生物で、別系統の生き物」。

 「イナゴはカルシウム一杯といって食べた時期があったし、いまでもそう思い込んでいる人がいるが、イナゴにカルシウムはなく糖分があるだけ。カルシウムをとりたければ、カニ、エビ、クモ、サソリをお勧めする」。

 「サルの食事は行儀が悪い。果実を少し齧っては捨ててしまう。しかし、下を歩く猪、鹿、昆虫、飛べない鳥にとってはご馳走になり、サルを含めかれらの排泄した糞から種が根付き、新たな植物が誕生する」。

 「哺乳類の子は可愛いく、親は子を守る。鳥類にも同じ傾向がある。例外は爬虫類、魚類、昆虫で、生まれ出た瞬間から自力で生きる。だから、形にしても仕草にしても格別に可愛いらしさはない。高等動物は本能だけで生きていけず、親から学ぶトレーニング期間を必要とする。一番時間のかかるのが人間だが、魚やワニのなかには敵を発見すると、子を口のなかに収容して保護する種もいる。

 他人が飼っている犬に「お手」など要求するのは、隣の娘さんに「お酌しろ」といってるも同然。

 「ヌー、シマウマ、ガゼルなどは毎日のように仲間がライオンやチーターやハイエナに倒され、食われる場面を目にしているが、全体の種の保存に役立っているから、恐怖感でノイローゼになったり鬱病になったりはしないし、生き地獄のような日々を送っているわけでもない。食う側のライオンらも狩りが不成功に終わり、そういう日が連続すれば死ぬ運命にある。あらゆる生物は、人間を含め、絶対的に安全で死の危険がないなどということはない。また、食われることは被害ではあるが、適当な間引きの効果をももち、同じ種が繁殖しすぎないためのブレーキにもなっている」。

 「あらゆる生物に横のつながりはあっても、上下関係はない。動物の世界を含め、宇宙や大自然はロールプレイングゲームなどよりはるかに果てしのない世界であり、そのうえ人間の脳髄を刺激し、発達させてくれる。心の栄養にもなる。自然が造った細胞の一粒は人間のつくったいかなる技術よりも桁違いに複雑で深遠」。

(もっと、宇宙に関心を向け、もっと自然のすごさに目覚めよ」いう作者の声にならぬ声が聞こえてきそうだ)。

 著者はさいごに「困難や苦難を乗り越えた瞬間に、人間は幸福、喜びを感ずる。苦難も困難も経験できない人には永遠に幸福感というものはわからないだろう」といって、本書を締めくくった。

 ちなみに、著者は1961年生まれの獣医、常に100匹以上の動物と暮らし、苦しんでいるペットをハイテクを使って助け、オペは総ガラス張りの部屋で、公開している。


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