ウルトラ・ダラー/手嶋龍一著

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ウルトラ・ダラー

「ウルトラ・ダラー」
手嶋龍一(元NHKワシントン市局長)著
新潮社2006年3月初出/p>
 

 北朝鮮が国を挙げ、ロシアや中国に設立した会社を通し、技術大国の印刷機械、印刷技術、紙幣用の特殊な紙などを集め、同時に技術者を拉致し、偽100ドル紙幣をつくり、それをベースにミサイルやプルトニュムやウランの抽出に全力で取り組んでいることは、すでに全世界が知悉していることで、それ自体に目新しさはない。

 新しい偽ドル紙幣が出るたびに、それを見破る検知器が発明されると、さらに検知器を素通りできる紙幣が製造され、再び出回るという悪循環がくりかえされてきたことも事実で、そうした技術水準の高いドル紙幣を「ウルトラ・ダラー」と称している。

 作者がNHKのアメリカ支局長時代に、立場を利用して耳にしたこと、耳にできたこと、その他の資料などが本書のベースとなっていることは確かで、物語の一部に真実性を感じはするが、全体的には虚構、といって悪ければ「つくりごと」を挿入、虚実を繋ぎあわせた推理小説の類だというのが、私の正直な感想。

 つくりものめいて感ずるのは、たとえば、日本の女性審議官が登場するが、日本女性にこのように、もったいぶった、かつ怜悧な言葉を口にする人はいない。まるで、アメリカ女性(たとえばライス国務長官)がしゃべった話を翻訳したような言葉使いと雰囲気が感じられる。

 さらに、すでに約束のできている女と同じホテルの隣室に宿泊することになっている男がわざわざホテルの支配人を呼び出して、高価な品物を賄賂として差し出しつつ、隣の女性との関係を明かし、隣のルームのスペアキーをくれないかと交渉するなどあり得ない。スペアキーをもらうことに成功したのはいいが、その部屋に盗撮用のカメラを仕込まれるに至っては、話が陳腐すぎて、先を読み継ぐ気力が萎えてしまう。だいたい、できあがっている男と女が同じホテルに部屋を別にして宿泊する場合、ほとんど百パーセント、互いにノックするだけで入室するか、さもなければルーム・ツー・ルームの内線電話で連絡しあうであろう。

 せっかく、舞台を地球規模に広げながら、つまらぬところで部分破綻するのは継ぎ目部分への推敲、考察がいい加減で、細やかな気配りに欠けたために、せっかくの真実の部分までが色褪せて感じられる。

 帯広告に「これを小説だと言っているのは著者だけだ」と書いているが、それが本当だからであり、新潮社が出版した作品にしては、内容への緻密、綿密なチェック、思慮が足りなかったように思われる。

 話は飛んでしまうが、本書を読んでいて想い起こしたのは、かつて社会党の党首だった土井たか子のことで、あたかも北朝鮮のスポークスマンのように、北朝鮮の発言を百パーセント信頼し、それを国民に発表していたことだ。拉致が露見したあとは、党首の首をすげ替えて、雲隠れしてしまったが、「国賊」に値する存在だと私は思っている。また、拉致が何十件も連続して起こっていた時代の海保と警察も、いったいなにをやっていたのか、警鐘一つ鳴らさなかったのはなぜなのか、不可解至極というしかない。「海猿」などをやってる場合じゃないぜ」という意見は私だけではないだろう。

 本書は、正直にいうが、パッチワークの下手くそな人の作品を読むような印象だった。

 この書評をブログに記入した直後、「スーパーノート」という言葉がアメリカから出、この作者が偽札についてTVで説明していたが、「Note」には「札」という意味があり、「スーパー・ダラー」というのは和製英語くさいものの、日本人向けの書籍のタイトルとしては「ノート」よりは「ダラー」のほうが理解されやすい。


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