世界のこぼれ話・日本のよもやま話/深澤兵吾著

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世界のこぼれ話・日本のよもやま話

「世界のこぼれ話・日本のよもやま話」  ¥1600+税
著者:深澤兵吾(大正末期生まれ/元「味の素」社員・欧州での長期業務経験者)
副題:海外生活50年の目
帯広告:金融危機、欧州での体験など秘話の数々をオーストリアから贈る

 戦争体験から始まって、現在世界が怯えているアメリカ発の金融恐慌までの長い時代を、50年という海外で過ごした稀有の体験期間を挟みつつ、大正生まれの作者が見たまま、聞いたままを著した作品であり、文字の量は多いけれども飽きがこない。おそらく、その理由は著者が3か国くらいの言葉を自由に操れる能力を持っていたからだろう。

 以下は、備忘録を兼ね、面白いと思ったところを記述する。(  )内は私の意見。

*第二次大戦後の戦争裁判では、英軍も米軍も復讐の念に燃えて厳しい判決を出したが、ソ連とのあいだに亀裂が生じはじめると、とたんに厳しさがゆるんだ。

*戦後、GI(アメリカ兵)相手に売春した日本女性を「パンさん」と呼んだ。

(「パンパン」と呼ぶ人の方が多かったと聞いている。語源は色々あるらしいが、私はインドネシアかマレーシア帰りの兵隊がマレー語の女性を意味する「プルンプアン」をいい加減な発音で「パンパン」と言ったことに根があるという語言説を信じている)。

*戦後、最も信頼できない貿易上の相手がアメリカの中小企業だった。日本もフランスも多くの企業がだまされた。

(旅行業界でも同じ、約束の事前支払いに応じず、ツアー終了と同時に計画倒産という挙に出るアメリカのエイジェントが何社もあった)。

*ジェット機のない時代、プロペラ機で羽田・パリ間をアラスカのアンカレッジ経由で飛ぶと、片道30時間がかかった。今では9時間だが。

*オーストリアは交通事故が欧州で4番目に多く、それもみずから樹木に衝突したり、谷底に落ちたり、高速道路を逆走(年間に165件)したりして死に至る不思議な国民性。

*フランスの「シャンゼリゼー」とは「野原と畑」という意味。

*欧州の企業はほとんど全部軍隊方式で、トップダウンであり、大きなビジネスの話はいきなりトップ・マネージメントと話をしないことには成立しない。

(日本社会では若干ニュアンスが異なる。アメリカの旅行エイジェントの代表に同行して、東京、京都の有名ホテルとの交渉にあたっても、「その件は上司と相談いたしまして」などという返事をしばしば耳にしたし、同行のエイジェントが「ディシジョン・メイカーをはじめから出せ」と怒ったことも稀ではなかった)。

*スターリンは何千万人も殺しながら、85歳まで長生きした。

(毛沢東も同じ程度の殺人を犯している。共産主義、社会主義というものはこうした独裁者を生む土壌になりやすい)。

*理屈を並べたら、世界のトップクラスに入るのがフランス人。フランスでは革命時、ベルサイユ宮殿周辺で反乱市民が3万人も殺戮されながら、自由を手に入れた。とはいえ、人間性は徹底してロジカルで、個人主義。にも拘わらず、経済は一貫して社会主義的、その窮屈さにフランス生まれの金融機関がうんざりしてイギリスに移転している。

(理屈っぽい点ではドイツ人も同列。でなかったら、哲学者があれほど多く出るはずがない)。

*アメリカ金融恐慌は、メリル・リンチが破産してバンク・オブ・アメリカが買収、リーマン・ブラザースが破綻、世界最大の保険会社、AIGは政府援助を受けて辛うじて蘇った。以上は僅か10日間に発生した。数日後には、世界最大の貯蓄銀行、ワシントン・ミューチュアルが破産。

*サウジアラビア、クェート、ドバイには犯罪がない。刑務所も空っぽ、たまに入っているのが外国人。

(石油の高騰で潤い、収入の多い人間は犯罪を犯さない?)。

*日本語の「寂び」をフランス人、イタリア人はだいたい理解するが、アメリカ人、イギリス人はそういう感覚を培養する土壌に恵まれていず、理解するうえで無理がある。

*ドイツ人、イギリス人はフランス人、スペイン人などラテン系に比べ、鈍感。(鈍感ではあるが、アンダーテーブルにはフランス人やスペイン人のようなラテン系のように手を出したりしなっかったのだが・・・)。

*カトリックの国、イタリアは21世紀になっても牧師がいい生活をして、市民は貧しい。厳しいカトリックの国なのに、泥棒も多い。

(ローマで置き引きに遇った日本人は数多い。なにしろ、マフィアが仕切る国なのだから。そういう国柄がベースにあったからこそ、アメリカに移民したイタリアマフィアがあの名高き映画、「God Father」を生んだ)。

*ピレネー山脈に22キロメートル四方の小さな国、人口6万9千人の「アンドラ」という国がある。1278年から1993年までの715年間、フランスとスペインの共同統治国家だった。アンドラはユーロを使うことをEUに許されながら、税金のない国だから、フランスやスペインから小売業者がやって来ては品物を買う。アンドラは卸問屋といった格好の独立国家で、土地は海抜の高いところにあり、道路は一本しかないが、刑務所がない。留置所はあるが使ったことがない。人口のうち3分の2は移住者。

(同じピレネーにバスク人という特殊な民族が住んでいるが、ピレネー山脈という場所は不思議なところである。なお、本年の6月16日に「バスク人」というタイトル名の書を本ブログで書評している)。

*欧州で階級意識の強いのはイギリス、オーストリア、ドイツ、イタリア、最も平民的な国はスウェーデン、オランダ、ノルウェー、フィンランド。ただ、オーストリア人は異常に自殺者が多く、厭世観がウィーンを支配している。モーツアルトも35歳で自裁している。

(オーストリア人に階級意識が強いのはたぶんかつては欧州の半分以上を支配したハプスブルグ家を持ったという歴史的自意識がそうさせているのであろう。優れた音楽家を生む土壌が厭世観に繋がるとは思えないけれども)。

*ドイツ人はルールがないと、どうしてよいか判らず、立ちすくんでしまう。常識で考え、行動することがない。とはいえ、ビジネスパートナーとして信頼できるのはドイツ人であり、欧州人はフランス人をはじめドイツ人には一目おき、信頼、尊敬し、かつ恐れてもいる。ただ、ドイツの若者にはかつてのドイツ人が持っていた質実剛健、重厚な精神は全くなく軽薄である。

(現代の日本人にも共通している?戦後の日本人はアメリカナイズされたゆえか、なにごとにもマニュアルを用意するのが好き)

*ドイツ人が見るアメリカ観は文化が低すぎる、朝から晩まで金、金、金と、人間的レベルも低い。

(通貨という概念を含め資本主義そのものの土台はユダヤ人がつくったのだし、大量のユダヤ人がアメリカに移民したのだから、そこには当然ながら金融至上主義が創造され、投機主義が生まれ、金、金、金という社会になる。ユダヤ人は貴金属もシンジケートで仕切っているし、手を地面や泥に触れるような仕事はせず、人と人のあいだに介在して行なうブローカー的なビジネスが得意)。

*ドイツ人はドイツのことにしか関心を払わない。だから、オリンピックでも世界大会でも、ドイツ人選手しかTVキャメラが追わず、どこの誰がトップなのか、誰が勝ったのか、それがドイツ人でない限り、まったく判らない。

*現在のイギリスは紳士の国というイメージからは遠い。欧州の他の大都市に比べても、品の悪さではロンドンが真っ先に挙げられる。柄は悪いし、話し声はでかいし、ポンドに不慣れな外国人相手なら釣銭すらごまかそうとする。日本の経済力はイギリスの4倍であり、イギリスにフランス、イタリア、カナダを加えた経済に匹敵する。

(問題はいつまで続くかだ)。

*イギリスはEU圏内にありながら主権国家としての立場を失うことを恐れるあまり、絶対にユーローに加盟しようとしない。イギリスの顔は欧州より、むしろ米国に向いているが、今回の経済恐慌を受け、将来の自国経済をどうしていくか予断を許さない。

*かつてはギリシャが、ローマ帝国が世界を睥睨(へいげい)する立場から凋落(ちょうらく)したように、七つの海を支配した大英帝国も同じ運命をたどるだろう。第二次大戦後の経済的衰退がイギリス人の精神的余裕を奪ってしまっている。

*2050年頃、世界の覇権を争っているのは、やはり米国、中国、そして日本であろう。米国は世界最大の犯罪多発国であり、道徳は地に落ちていて、内部崩壊のリスクが恒常的にある。中国は農民運動が新たな革命を生まない限り、うまくやっていくだろう。

(日本が抱える問題は、戦後の高度経済成長を担ったときの精神が世代の交代が進むにつれ失われ、優柔不断に流れていることではなかろうか)。

*日本人は外国人の取り扱い方を知らない。外国に支店をもつ会社ですら、該当する国で雇用した現地人の扱いは拙劣を極める。

(一般的には、とくに白人に対してビビルか、反対に高飛車に出る傾向があるから、結果が良いわけがない。だから、外国在の日本企業や支店は日本滞在経験者や、日本人とのハーフを優先して雇用するが、これは逃げである。外国に支店をつくっても、トップはほとんど日本人を送るのも日本企業に共通する欠陥。まさか、ユニクロはこういうことはしないだろう)。

*EUは27か国の加盟により、外交と通商に関しては各国とも単独ではやらず、代表に任せる方式を採用しているが、それでも米国や外交上手な中国には歯が立たない。EUメンバーは内部の「指令法」に拘束され、脅かされるばかりで、それぞれが自由闊達に経済活動しているようには見えない。

(5億人という大きな市場を抱えながら、その規模を生かしきれずにいる。国によって異なる経済力、とくに国内に問題の多いポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシャを抱えながら、今後ともユーロをしっかりした基調で堅持できるのかが問題)。

*旧ソ連圏にあったポーランド、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、エストニア、ラトビア、リトアニアの8か国をEUに加盟させるため、資本主義的な市場の在り方、管理、銀行間取引、マーケティング、私有財産、生産手段、企業の雇用、物資の価格決定など、一から教育しているが、40年以上も共産主義政府下にあった国民に理解させるのは簡単なことではない。しかも、運悪く、2007年には金融恐慌まで始まり、自由市場理解への流れを阻害してしまい、あわせて各国の金融機関を破綻寸前に追いこんでいる。ある学者はこれらの国が資本主義的社会の創造というレベルに達するには40年近い歳月が必要だろうと言っている。

*メキシコには入国するのに税関が3箇所もある。狙いはチップ。月給が安すぎるから可処分所得を増やそうという悪智恵を働かせるのは人間の常。

(インドネシアも同じだし、かつてはタイでも同じだった。フィリピンでは、今でも日本人の財布のなかまで覗こうとする。こうした国の人間には、そうした行為が祖国の恥部に映るという観念そのものが欠けている。衣食足りて礼節を知るということだろう)。

*日本の土地は今後も上昇する。なぜなら国土の20%しか平地がなく、ここに1億以上の人口がひしめいているから。「土地価格上昇は神話だった」と諦めているのは日本人だけで、アメリカの投資企業、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスは日本の破産寸前のゴルフ場、リゾートホテル、都市のビルを買い漁っている。

 この著者が海外経験をしたベースは「味の素」という企業で、そこからの派遣、出向で、多くは欧州の各国に駐在した体験があって、多くの知見を得る機会となった。私に不可解なのは、味の素が欧州でそれほど売れていたのかということで、この疑惑は単に自分の家のキチンには味の素がないという事実があるからだが。

 最後に中国についての著者の言葉。

 「現在の中国には唯物論と資本論を書いたカール・マルクスと、国富論を書いたアダム・スミスが同居している状態」--言われてみれば、まったくその通りだ。


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