外注される戦争/菅原出著

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「外注される戦争」 菅原出(1969年生)著
副題:民間軍事会社の正体
著者は中央大学を卒業後、オランダに留学、アムステルダム大学政治社会学部国際関係学科卒。国際関係の修学士であり、現在は東京財団リサーチ・フェローの職員
草思社より2007年3月に単行本初版。

 イラクやアフガニスタンにおけるテロ戦争の実態を知りたいという読者にはこれ以上にない内容であり、戦争中だけでなく、戦後の復興活動、要人の警護、食料飲料のほか武器の輸送、補給、給食サービス、現地警察の育成、訓練などの有用性にも触れている。

 9.11以後、密入国者、外国人による犯罪、情報収集、兵器の闇売買、災害者救援、難民救済、紛争後の治安維持、テロ対応、経済復興支援、などなど、グローバリズムの時代、一国の軍隊だけで、このような新しい脅威に対応してきれないという状況がつくられた。つまり、かつてのような国家対国家の戦争という枠では捉えきれないという実態。戦中はおろか戦後処理にも時間がかかる時代になったことで、そのことはイラクやアフガニスタンから送られてくるニュースでも判る。

 イラク戦争への参加国と人数は(本書が上梓された時点で):アメリカ140,000人、イギリス9、000人、ポーランド2,500人、イタリア3,000人、ウクライナ1,600人、スペイン1,300人、オーストラリア900人、ルーマニア700人、日本600人に対し、PMC(Private Military Company/個人企業ベースの軍事関連企業)は初期段階ですでにアメリカB社が800人、T社が1,000人、D社が1,000人、イギリスがO社1,000人、G社が1,200人、A社が1,600人、C社が500人で、PMC合計7,100人という数になっている。

 PMCはかつての外人部隊や傭兵ではない。軍事的ミッションのビジネス化でS氏は元陸上自衛隊で2年在籍した日本人だが、イギリスのH社に雇用され、イラクで物資の運搬警護中に待ち伏せしていたグループに襲撃され、拘束されたが、その後行方不明のままであり、殺害されたと見られている。H社は年間120億ドルの売り上げで、本社をキプロス、ロンドン、モスクワ、ニューヨーク、ワシントン、バグダッド、クウェート、メキシコ、シンガポールに支社をもつ、イギリス人による経営企業である。

 PMCの求める人材は多岐にわたり、アラビア語に堪能な者、元海兵隊員などで実戦、とくにゲリラ戦を経験したもの、軍事訓練のできる人、軍事作戦を計画、策定できる者などであり、こうした素材は米国の正規の新人りの軍人よりはるかに柔軟性に富み、実情への対応も柔軟で、そのうえ、正規軍を使うよりはるかに安いコストで雇用することができるため、PMCの仕事には情報を収集する仕事までが増え、PMCの能力、機能は結果的に繊細で、各国軍隊を凌ぐ面が多くなった。(戦争専門のプロという印象)。

 また、各国からやって来る情報の収拾を目的とする人間へのアドバイスはもとより、訓練まで施すことで、情報関係者の事故、死亡といったケースが減っている。また、各PMCにはそれぞれに得意とする分野もあり、後方支援や物資補給に徹している会社、インテリジェンス(スパイ行為)、衛星、航空による監視、情報通信の傍受を主な業務とする会社、軍人の心理的な情報戦を主力とする企業も生まれ、地雷や不発弾処理、撤去作業だけに従事する会社も存在する。

 一つの例だが、元米軍陸軍の特殊部隊の人間が2003年にキャノピーという会社を設立、CPA警備の入札の情報を耳にするや、かつての同僚たちに声をかけると、応募する隊員たちは後を絶たずにやってきた。1年後にはイラクで1、000人の企業となり、ウチ200人がアメリカ人、残るはチリーとフィジーの元軍人。この企業は米国政府から年に2億5千万ドル(約300億円)を得ている。生命の危険はあるが、収入面で報われるため、リクルートに難儀することはない。

 PMCは予期せぬ戦闘に巻き込まれた場合、正規の軍隊による対応、救援が頼りにならないことを悟り、以後はPMC同士によるチームワークで協力しあう態勢が芽生えはじめた。情報やリスクに関する共有。本来なら、競合関係にありながら、こうした制度に落ち着くこと自体、治安状況の深刻さを物語っている。このような経緯を踏まえ、米軍や連合軍までが極秘情報をPMCに流すようになった。

 PMC業務の請負人たちの多くはアメリカならレンジャー部隊、グリーンベレー(海兵隊)、デルタフォース、シールNなどの特殊部隊に属していた者、イギリスなら、特殊空挺部隊(SAS)、特殊艦艇部隊経験者、王室関係警護担当者など、元超エリートの部隊の出身者が多く、この世界では引っ張りだこ。ときには、PMC同士の人材のスカウト合戦や引張りっこが行なわれる。当然ながら、戦争に関する人材でありながら、その能力が生かされずにいたときに、生命の危険はあっても、多額の報酬が期待できるPMCの魅力はあなどれない。

 (「アメリカの新兵はほとんど使い者にならない」という話があるが、これは最近になって、アメリカ市民権欲しさでアメリカ軍のリクルトーに応じる外国人が急増している事実と関係しているのかも知れない)

 今や、イラクには,南アフリカの元軍人やフィリピン人が6,000人もいるし、情報機関員、元警察官らは総勢1,500人程度いる。インド人も1,500人、その他ネパール、チリー、コロンビア、ウクライナ、イスラエル、フィジー、パキスタン、アルジェリア、フランス、セルビア、ロシアなど、文字通り世界中から人材が集められている。

 また、本国では仕事を失ったグルカ兵7,000人以上も山岳戦や白兵戦を得意とする戦闘集団であり、いずれもPMCで仕事をしている。

 元々は、ラムズフェルト長官が意図したように、安あがりですませる「選択したイラク戦争」のはずが、結果的に毎月約50億ドル(約6千億円)の出費をせざるを得なくなり、2005年9月までの総額はすでに2400億ドル(約24兆円)を超えている。

 PMCを使って外国の治安機関を訓練するプログラムはすでに恒常化している。ギリシャ、チェコスロバキア、アゼルバイジャン、グルジア、ベルリン警察はかれらからこうした訓練をすでに受けている。

 PMCは時代のニーズを先取りした軍事企業、PMCなくしては新しい時代のテロ戦争に対応できない。ただ、アメリカ国民からは毎年国防費が上昇することに苛立ちが次第に強く、米軍もPMCに対し、コストの節減を図るよう執拗に迫る。結果、パキスタン、インドネシア、イエメン、タイ、スリランカ、ナイジェリア、サントメ・プリンシペ、モロッコ、チュニジア、アルジェリア、チャド、セネガル、パナマ、ドミニカなど、より人件費の安い国の人間がリクルートの対象国として挙がっている。

 日本の安全対策、危機管理に対する意識は驚くほど低い。紛争後の地域で強盗や誘拐犯が犯罪を平気で犯すのは常識であり、「安全は金で買う」ことも常識である。そういう意識がなく、「善意の難民キャンプへの支援活動をするだけなのに、なぜ?」などと言っていること自体、平和ボケの救いがたい短絡というべきか、意識の欠落というべきか。

 テロの増加と、セキュリティの強化は、いわばイタチごっこ、制御不能なままエスカレートしている。イラクでも、アフガニスタンでも、対テロ戦は人類が経験したことのない未体験ゾーンへと突入している。終わりなき、この「悪循環」にアメリカはどう対応していくのであろうか。また、日本のインド洋における補給はいつまで続くのであろうか。つい最近も、ロシアの鉄道爆破がニュースとして流れ、チェチェン人の仕業だとの推測まである。(ロシアの自業自得ではあろうが)。

 このような人類の阿呆さ加減を見ていると、人類の煩悩、いやらしさ、自己中心的思考、汚ならしさ、貪欲さをあらためて感じざるを得ず、「人類は地球が生んだ最低、最悪の生き物」との印象がいよいよ強くなる。


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One Response to “外注される戦争/菅原出著”

  1. cornervalley より:

    軍産複合企業に関する本を、一時期多く読んでいました。
    軍事作戦だけが仕事ではないとは言いますが、結局は、前線で人殺しをしている人たちをサポートしている。(日本の自衛隊も!)
    こんな産業が成り立ってしまうこと自体悲しいです。
    「人類が地球が生んだ最低の生き物」が事実であってほしくないと思います。
    世界の人たちが「平和ボケ」になる日は来るのでしょうか?

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