黒澤明から聞いたこと/川村蘭太著

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黒沢明から聞いたこと

「黒澤明から聞いたこと」 川村蘭太(1945年生/黒澤エンタプライゼス専務)著
2009年4月20日 新潮社より新書初版 ¥720+税

 著者は長期にわたり黒澤監督と時間を共有した人物。

 本書は黒澤明というキャラクターと黒澤家の家庭の事情をメインに、「影武者」や「乱」などを実現していくプロセスを含め、全体をノンフィクション的に、かつエッセイ風に書いたもの。

 正直いって、作者の感情的な入れ込みがきつく、それが表現を誇張させ、客観性を殺いでしまっているという印象に繋がり、退屈な部分も少なくなかった。

 かねがね黒澤明の「画コンテ」には強い興味をもっていたが、そのことに話題がおよぶなかで、「美は深めることはできるが、誇張することはできない」との言葉に感銘を受けた。

 また、著者が担っていた「広告業務」は監督自身が担う会社とは別会社で、映画をつくる上で黒澤がしばしばコストを無視した仕事をしてしまうため、他分野からの収入を期待してのものだが、なかなかうまくいかなかった。ちょうど映画「乱」がクランクインに至ったころ、広告代理店を通じて科学技術庁の広報番組のコンペに潜りこむことに成功した。むろん、「乱」を映像化するためにかけた費用も莫大なものだった。

 (天才にはどこかに幼児的な欠点を合わせて持っているものだが、黒澤明にも社会性からずれたハチャメチャなところがあったことは否定できない)。

 ところが、請け負った広報番組の内容は原子力発電所への理解を求める番組で、当時の黒澤自身は原子力利用に警鐘を鳴らす立場にあった。著者は監督の経営する会社とエンタプライゼスとは経営が異なることを強調し、苦労しつつ、ようやく獲得した番組をつくったとある。

 本書は2009年に出版されているし、実際には新書として上梓される以前に、ニつの月間誌に連載していたものであり、明らかに大震災が起こるよりずっと昔に書かれたもので、黒澤明の「先見の明」が結果として伝えられることになり、この偶然には驚愕もし、喜びもした。


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