二十歳のころ(1)/立花隆著

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二十歳のころ1

「二十歳のころ」(1)
東京大学教養学部、立花隆教授ゼミ共同制作
新潮文庫 2002年1月  文庫化初版

 立花隆教授の先導により、19歳から20歳という、ある意味で最もクリティカル(危機的)で柔軟な年齢にあるゼミの学生らに、好きな相手を選択させ、質問を「あなたの20歳のころ」に絞り、インタビューさせ、それを文章にまとめ、最終的に本にするという企画を進めた。現実には、「20歳のころ」だけでなく、本人の人生観や専門の学問の話などが出てきて、内容が多彩、多岐にわたるものに結実している。

 本書は(1)と(2)に分かれているが、ここでは(1)を扱い、いずれ(2)を扱うつもりである。いずれも、600ページを越す分厚い量。(1)には31人の語り部が登場するが、本ブログでは私が個人的に記憶に残った人物の言葉だけここに取り上げたことを記しておく。

 立花教授のゼミであるという前提が効果をもち、選択された相手のほとんどは、一部の例外を除き、学生らによるインタビューに応じた。教授の狙いは、大学で講義を聞くだけでは単なるインプットに終わる、知識は適切にアウトプットされてはじめて本物になるという信念に基づいている。大人になるということは周囲の人間すべてが自分とは異なるメンタリティ(精神性)や、ものの見方、考え方、感じ方が違うことを知ることだとの主張には納得できる。

 さすがに登場する人物は現代を代表する人物のほか、原爆の被害者など多士済々、話の内容も面白い。なかから、気に入ったところ、気になるところ、学ばせてもらったところ、などを列記しておく。

1.牧野信雄(会社経営者)

日本軍隊は入隊すると古参兵から毎日殴られる。とくに夜はビンタの嵐

 こういう話はしばしば耳にすることだし、アメリカでの新兵訓練では意図的に卑猥な歌を歌いながら行進、匍匐前進が行なわれることも知っているが、なにかというとすぐ殴るこの国の習慣はどうして生まれたのであろうか。現在ですら、体育会系では先輩による後輩指導で、同じようなことが行なわれている学校は僅かではない。部活動や入社にあたり、新入りに酒を一気飲みさせるのも日本独特の悪習だが、これはモンゴロイドが世界一アルコールに弱いという事実と、そのなかでもアルコールとのつきあいが歴史的に最も浅い日本人が世界で最も下戸が多いという事実からの発想から始まったと推測される。誰もが酒に強かったら、一気飲みそのものが意味をなさない。

2.水木しげる(漫画家)

哲学用語はギリシャ時代から2、500年かかって日常言語からゆっくりと蒸留されてきた。哲学の基本的用語も日常語の中に根がある

 西欧では、ギリシャ語、ラテン語などは学校教育の必須科目であり、古代の遺産を引き継ぐことから学問が出発しているぶん、日本で花鳥風月の和歌を好んで身につけていた風土とは基本が違う。

宇宙の知生体の存在を説く人がいて、地球に影響を与えると、この知生体は人間とは発達過程を異にするから把握しにくく、薄々感じたものが人間にとって神や妖怪になるという。宇宙の知生体を考えないと人類の進化の謎を語れない

 水木氏の「神秘主義」は理解できるが、この話は「眉に唾」という印象。

3.茨木のり子(詩人)

むかしは新聞が変節しても国民のリーダー、今はテレビがリーダー。国民は自分でものを考えないといけない

 太平洋戦争で最も反省すべき点は、現在の北朝鮮がやっているような、一見、汚らしい交渉が外国とできなかった点ではなかろうか。当時、アメリカの言い分は日本に対し「満州から手を引け」だった。適当に言葉を並べ、虚偽を含め、時間かせぎを行い、アメリカとの正面衝突を避けることに腐心すべきだった。当時の日本外交は、いまでも大差ないが、児戯に等しい、低脳レベル。右翼と陸軍の突出した一部に力づくてもっていかれた戦争だったという気がする。新聞が世論形成に大きく寄与したことも事実だが、明らかに日本人の民度が低い。

4.萱家茂(前参議院議員・アイヌ資料館館長)

5%ぐらいの女が身をひさいで金儲けするのは、いつの時代も同じ

 この説には賛意できない。貧しい時代の5%は貧窮のなせる業であって、現在の5%は「援助交際」であり、やるやらないの自由があってやっている。同じ5%でも、相互に同質性はない。5%という数値だけを強調するのは誤解を生む。

いまの若い人にとって難しいのは価値観の分裂状況で、その分、迷いが多い。よく考えなければいけないが、考えすぎてそれがブレーキになってもいけない

 なるほどと唸らせることも発言している。

5.ジョージ・川口(ジャズ・ドラマー)

現在の若者は裕福で、平和で、のんびりしすぎ、軟弱になっている

 強きをくじき、弱きを助けではなく、弱い者を寄ってたかっていじめる陰湿さは軟弱さの表れ。

6.和田耕一(長崎原爆被爆者)

被爆者手帳をもたった人のなかには、被爆を体験しなかった人もいる。原爆の落ちた次の日に、家族、親族を探しに来ただけの人もいた。それに比べて、たとえば、東京大空襲で絨毯爆撃に遭い、半身不随になった人もいるが、それには何の保障もない。不公平は政府の対応次第で解決できる

 本件は現在訴訟問題となっている。行く末を見守りたい。なぜなら、空襲を受けたのは東京だけではないからだ。保障には国民の税金が使われることも考えておく必要がある。政府のやり方には必ずといっていいくらい不公平がつきまとう。

7.崎田昭夫(長崎原爆被爆者)

広島と長崎に落ちた原爆には大きな違いがある。広島の場合、ウラン235、リトルボーイ(爆弾名)、落ちて30秒でようやく千メートルの原子雲。一方、長崎の場合、プラトニウム239、ファットマン(爆弾名)、3秒間で原子雲は八千メートル。規模的に1.0対1.5というサイズの差、殺傷力の差があった

 にも拘わらず、被害が広島に多かったのは地形の差。長崎は盆地状のところに落ちたが、広島は平坦な地に落ちた。

 「戦争は人の痛みのわからぬ者がやること」だとしたら、日本軍が中国や満州に侵略したことそのものが戦争の発端ではないのか。日本人は人の痛みがわからぬのではなく、自分の痛みも人の痛みもすぐ忘れるというおめでたいキャラクター。だから、中国人や韓国人が未だに反日行動に出る理由がきちんと理解できない。

 「20日間、水一滴も飲めずにいると、内蔵の細胞が少しずつ崩れ落ちる」という話には20日間も水を飲まずに生きられたことに驚嘆。

8.中松義郎(国際解剖学者)

人間は条件さえ整えば、究極的に144歳まで生きることが可能

 平均寿命が80代でも現状の有様。そんなに長生きしたくはない。

20歳にセックスすると、頭が悪くなる。脳で快感を得ているわけだから、半熟卵の状態でセックスすれば、スクランブルエッグになってしまう

 この話は納得できない。男のほとんどは10代のうちにマスターベーションを覚える。生涯で一番性的に強いときだ。だから、一度覚えた味が忘れられず、毎夜やるようにもなる。脳が快感を得るということでは、実際のセックスもマスターベーションも同じはずで、氏の言い分を演繹すれば、すべての男はだから頭が悪いということになる。

終戦ではあっても、決して敗戦ではない。海軍学校には食料十分、軍備十分、意気も盛ん、そういう状態だったから、敗戦とは思わなかった。現実を把握すべきだった

 この発言には海軍学校というところにはウスラトンカチばかりが揃っていたのかとぞっとした。現に、国民のほとんどは野草や昆虫を食べて飢えを凌ぎ、軍艦などはほとんど撃沈されて失い、神風特攻隊用の飛行機さえなく、B29が空襲にやってきても迎え撃つ大砲の弾さえなかった。

 市民から指輪、金のボタンなどまで採り上げ、寺から鐘楼を寄進させ、という、そういう事態に陥っていた。そうした事実を看過する氏の神経が不可解。 同じ本のなかで、他の女性が語っているが、13歳から学徒動員までされ工場で働かされているような国が、「敗戦ではなく終戦だった」などとほざくのは、ごまめの歯ぎしり以上に醜い。「無条件降伏」それが正しい歴史認識。

9.曽野綾子(作家)

 語りを読んで、執筆するときと、会話するときとのギャップを感じ、この人への印象も変えさせられた。

10.山田太一(作家、脚本家)

人間は実にいろんな風にコロコロと変わる生き物

TVは視聴率主義だし、視聴率の良し悪しとは関係なく、良い番組と悪い番組がある。こういう番組を見て、思い切り悪口を言ってみると、自分の基準が解る

 いや、まったく同感。

「社会は自分の思いどおりにはならない。他人ですら、そうなんだから

 自分の女房ですら思いどおりにはいかないが正解でしょう。

至福だと思えるときが切れ切れにあれば、それで満足と言ったのはモンテニュー

若いときはある価値観に基づく効率からはみ出る時間を生きるのも大切

11.筑紫哲也(ジャーナリスト)

 「頭の良いのが左翼化する」は違うと思う。頭の中途半端に良いやつが左翼化するが正しいのではないか。むろん、バカにはマルクスのロジックに痺れるほどの感性がない。尤も、マルクスの論理は後に論駁されているが。筑紫の左傾した姿勢はいまどき流行らない。はやくマスコミから消えたほうが世のためだ。

12.加藤尚武(鳥取環境大学学長)

自由という概念、平等という概念、所有権という概念。これが有効なのかどうかという問題に対して、今後の世界はリスクをはらむだろう

食料産地の分散、人口の爆発(中国は15億、インドは13億)、自然環境の変化を考えてみるだけで、人類が明らかに下り坂に入っていることが解る。今までのような外交、国際関係、経済援助だとかいう方式は必ず破綻する構造になっている。地球環境の管理方式の科学、世界の合意を得られる構造という難しい課題がある。放置すれば、君たち若者はいずれ地球に押し潰されてしまう

 全く同感。


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