老人の勉強 

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 「老人の勉強」


 あるとき、ひまがあって、ファミレスに入り、示された席に腰をすえた。ホットコーヒーを注文してからふと前方を見ると、目と鼻の先に一人の老人がいたが同伴者はいず、年齢は76歳くらい、シャビーな(みすぼらし)ジャンパーをはおって、ケーキを食べているのだが、その様がいかにも貧乏たらしい。ケーキの食べ方にしても、不慣れであることが歴然としている。フォークでカットもせず口になかにいきなり放り込んでしまった。

 しばらくして、コーヒーを飲み終え、目を老人に戻すと、一冊の分厚い本をテーブルの上に立てるようにして持ち、右手にもつ赤鉛筆でときどきアンダーラインを引き出した。よく見ると、本の背表紙には英語で「PYTHON]と書かれている。テーブルには辞書の類はまったくない。PYTHONとは明らかに英語で、「ニシキヘビ」を意味するが、内容がすべて英語であり、文献の類であることはすぐに了解できた。

 と同時に、その老人が学者であること、文学者か爬虫類研究者か動物学者であるか、いずれかであることを認識した。

 言葉は悪いが場末のレストランで老人のそうした姿に接して、私は言葉もなく、ただただ感動した。


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