切り絵の世界

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切り絵

 わが国には、切り絵に関し、昔から固有の伝統的手法があり、落語家などが上がる高座で切り絵を専門とする人が客の要望に応え、観衆の見守る前で白黒の切り絵を仕上げてみせたものであり、今日でもそれは日常茶飯に行なわれている。

 最近、TV放映を通じて知ったことは、切り絵の本場はヨーロッパのスイスとドイツであること、しばしばコンペが行なわれること、土地の土産品になっていること、そして最近になって、スイスに居住する日本女性の切り絵が本場の専門家の賞賛するところとなり、B-5、A-4、いずれのサイズでも百万円以上の値がつくだけでなく、注文はひっきりなしにあるという。

 スイスの有名作家の作品と比較しても、明らかに彼女の作品のほうが優れており、1ミリ、2ミリという極細の線すら誤って切断してしまうこともなく、その繊細さには日本古来の伝統美、花鳥風月の精神が込められているように感じられた。

 彼女は特殊なハサミを使って、テーマによっては数ヶ月をかけて仕上げるのだが、ヨーロッパ人が彼女に注文するテーマの多くは、欧州の詩人が残した詩をベースにアルファベッドを並べ、花などを周囲に散らす手法であり、私は作品の見事さに圧倒され、声も出なかった。

 上の写真はその一例だが、テレビで紹介された映像はこの写真よりサイズが大きいだけでなく、細かく、繊細だった。

 おそらく、彼女の切り絵に対して遜色のない絵を仕上げることのできる切り絵師は、少なくとも現時点では、日本にいないのではないか。彼女が格別に細かな仕事に向いている器用さを身にしていることは否めないが、スイス、ドイツで学んだ技法からの新たな技術的向上、テーマから学んだ新たなアイディアの発想が日本的なものとのコラボレーションを可能にし、誰もが達し得ない高みへと昇りつめたのだと、私は推測している。


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