羽田管制塔と管制官の実態

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羽田管制塔

 1月17日、NHKで放映した上記にかかわる実態の紹介に、久しぶりに感動した。

 紹介によれば、羽田には1日につき、およそ800機の飛行機が離発着するという。それらを互いに9キロの間隔に整列させ、事故のないように、パイロットとの連絡を蜜にしつつ、さらには人の命を預かって緊張しているパイロットたちを安堵させながら、誘導を図るというのが管制官の仕事である。

 羽田は成田国際空港ができあがる前、国際空港としての立場にあり、その当時から管制官業務に携わってきた一人の男性(57歳)が「すご腕の管制官」として紹介され、その仕事ぶりが細かく説明されつつ、苦労のほど、過去に心を尽くした内容、日本一の管制官としての名声を得るに至った経緯なども併せ紹介された。

 このTV放映で、私を含め視聴者の心を最も捉えたのは、レイダーによる画面に次々に入ってくる飛行機の数の多さと、待ったなしの決断を要する状況のなか、それぞれの飛行機を操縦するパイロットへの指示が的確に、かつ迅速な判断のもとに行なわれることだった。

 指示はもちろん英語でなされるのだが、すべての飛行機が同じ方向に向かっているのではなく、逆の方向から羽田に向かってくる飛行機もあり、しかも飛行機と飛行機の間隔はたったの9キロ(ジェット機だから、2分間で詰まってしまう距離)。

 すべての飛行機は人命を預かり、パイロットたちは離発着時には緊張のかたまりになるだけでなく、通常飛行時に比べ、操縦操作は複雑かつ迅速な対応に追われる。いかに、かれらの緊張を和らげ、安心させ、パイロット業務に打ち込めるか、当該人物はあたかもパイロットの気持ちに寄り沿うようにして離発着時に身にするプレッシュアーを和らげることに心血を注ぐ。そのためには、管制塔から発する指示、助言が的確であることがなによりも重要だが、加えて、言葉による指示を通し、管制官とパイロットたちとの人間的な信頼関係を築くことで、そのことを何よりも優先させるのがTVに紹介された人物である。

 氏は羽田が国際航空だった頃から、管制官の仕事に従事、一時は沖縄の空港に配転されるが、再び羽田に転勤し、現在に至っている。

 視聴者を魅了したのは、レイダー画面だけを見ながら、多くの飛行機、しかも継続して途切れることなくレイダー画面に入ってくる数多くの飛行機を等間隔に整列させるにあたっては、各機が置かれている高度によって風速までが異なることを読みながら、各機に「北へ何度」とか、高度を具体的な高さに変更させるよう指示しつつ、逆方向から接近してくる飛行機を、込みあう列のなかに巧みに入れていくこともあれば、読み違っていることに気づけば、即座に高度、方向の指示を換えざるを得ないこともある。言葉を換えれば、一瞬、一瞬の指示が決断と即断を要することで、間違えれば大惨事に結果する。一日、八時間におよぶ仕事、緊張と集中力を継続するという、大変な業務である。しかも、これが毎日続く。

 氏のテクニックは、文字通り、「人間業」を超えている。いうまでもなく、気象に関しては予め知り得るけれども、高度によって異なる風速を読むのは至難の業で、長年の経験による勘が氏の身体にしみこんでいるとしか思えない。

 各パイロットも、氏の声を管制塔から耳にすると、他の管制官と対応する場合に比べ、安心感が違うと断言して憚らない。どのパイロットも、氏には百パーセントの信頼を置いていることが判る。一般的には言葉にして伝えないことでも、同じ高度にヘリコプターなどが存在し、同じ方向に機首を向けている場合には、そのことを予めパイロットに報せてやることで注意させることもあり、パイロットから着陸後に「Thank you for your detailed and polite information」(細かく丁寧なご指示、ありがとございました」という、普段はあまり聞かれない感謝が述べられたりもする。

 氏は少年の頃からパイロットになることを夢みていたが、若い頃に病気をし、健康体であることを何よりも重視されるパイロットという職業を選択することが無理だと判ると、パイロットと共に空を飛ぶ気分の味わえる管制官への道を歩むことを決断したという。

 氏の発言のなかで、最も感動したのは、「職場の従業員は、どのスタッフにも例外なく、多くの飛行機の誘導に、人命のかかっているパイロットらとの濃密な緊張が避けられない。過度の緊張は、パイロット、管制官の両サイドにとって決して望ましいことではなく、そのために、「職場に権威者をつくらない」「若い管制官の意見にも積極的に耳を傾けること」により自分がボス的存在になってスタッフの緊張感を倍加しないよう配慮しているといった発言だった。

 羽田は現在、滑走路の増設工事が始まっており、管制塔も新たに設けられる予定。国内はもとよりアジア圏内の国々の飛行機が成田ではなく、羽田に入ってくるようになるのは目に見えている。そのために、羽田管制塔には多数の新人管制官が配置転換、投入され、氏はそういう若い人たちの教育も担っているが、こういう師を得ることは幸運の一語であろう。


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2 Responses to “羽田管制塔と管制官の実態”

  1. アオイ より:

    彼がパイロットではなく管制官業務に就かれて良かったと思います。(もちろんご病気になられたことは喜ばしいことではありませんが・・・
    もしも彼が希望通りパイロットになっていたら、優秀な管制官は生まれなかったのでしょうね。
    何がきっかけで天性の仕事と巡り合えるかわかりませんねぇ。

  2. hustler より:

    アオイさんも同じTVをご覧になったんですね。おっしゃる通り、もし彼がパイロットになっていたら、彼のような管制官は生まれていなかったでしょう。同感です。

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