水中世界への挑戦「ケース5:グランプリ獲得の水中撮影はしばしば偶然の所産」(その2)

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 語り手:静岡県静岡市在K氏(作業ダイバー/指導員)

グランプリ獲得の水中撮影はしばしば偶然の所産(その2)

 それから日が過ぎ、季節も変わって、この一件は忘れていた。

 そんなある日、山科研究所から大きな封筒が届けられた。開封してみると、研究レポートのようなものが入っている。英語と日本語というニつの言語で書かれた学術書だったが、そのなかに私が送った写真も載っており、撮影者である私の名と撮影場所とがあわせて記されていた。

 なかに、鳥が水深二十七メートルもの深みまで潜って、海底に設置された魚網にからまっている魚をくわえている写真がある。もちろん、ほかのダイバーによる写真だ。二十七メートルまで潜ってくる体力はもとより息継ぎできぬ状態でいられることが驚きだった。

 しかし、次のページの、もう一枚の写真に目を移したときは実はもっとびっくりした。海底の魚網の傍に立つダイバーの手から獲物をもらっている写真だった。水中で魚への餌付けは納得がいくが、深みで鳥へ餌づけする写真には目を奪われ、その写真のほうがグランプリにふさわしいとひそかに思ったものだ。

 山科研究所からのレポートは私が大瀬崎で見た鳥が「ミズナギドリ」であることを教えていたが、先に述べた「落雷潜水」、「突撃潜水」という専門用語もこのレポートから学んだ。

 最近ではテレビでもクジラやイルカ、あるいは大きな回遊魚が小魚を追って周囲をかため、下から一気に上昇して小魚を一呑みにする場面が撮影され唸るような光景が自宅にいて見られる時代になったが、この頃はまだそういう時代には入ってない。

 建設省の仕事を請け負い、沼津の千本松原に行った。

 仕事は水深二十メートルに打ち込まれた鉄パイプのなかの特殊計器「波高計」の回収であった。理由は知らないが、その計器が作動しなくなったからという事情は聞いている。むろん、難しい作業でもないし、時間のかかる仕事でもなかった。

 海底に這うケーブルを見ながら沖合いに向かいニ百メートルほど海面を移動して現場に至った。そこから潜降し、ボルトナットをはずしてから、パイプのなかの波高計を取り出した。高さ五十センチ、太さ直径二十センチ、重さ五・六キロという計器を手に、ふと目を横に移してぎょっとした。

 私が作業していた地点からほんの十二、三メートルのところに六角形の大きなコンクリートブロックがたった一個ころがっていて、その下のえぐれに何かが動いている。

 持ち前の好奇心が私を逡わせなかった。計器を海底に置くなり、フィンをバタバタ蹴って、その場に急行した。

 接近するほどに「こりゃおもしろい図柄だ。また、グランプリだ」との思いが私をほくそ笑ませた。

(その3)に続く


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