水中世界への挑戦「ケース8:海上自衛隊の夜間訓練時、深い海面で子供がにっと笑った」(その2)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 語り手:沖縄県那覇市在T氏(元海上自衛隊・水中処分隊員)

海上自衛隊の夜間訓練時、深い海面で子供がにっと笑った(その2)

 帰郷してから、土地のウミンチュ(猟師)と話をする機会があり、そのとき「海に亡霊はつきもの」という話を聞かされた。

 「何年か前の話になる。仲間五人と、おれを含めて六人、遠洋漁業に出かけた。運よく、大量でさ、沖縄に向けて帰ってくるときだった。夜になってから海がシケてきて、雨の強くなってさ、みんな不安になって甲板に出た。台風まがいの風と雨のなか、伝統の薄明かりの下で、ロープや網なんかを波にさらわれないように、みんな合羽着て、そういうのまとめて紐でくくったり、かたづけたりしていたんだ。

 それからしばらくして、ふっと、仲間を見ると、そこに六人がいる。六人とも、みんな似たような合羽着て一生懸命に仕事していたんだ。おかしいな、全部で六人で沖縄を出たんだから、おれを入れると七人になってしまう。どうしても、甲板には一人多く交じっている。そう気づいたとき、全身が総毛だって、だけど、みんな同じような合羽着てるし、電灯は暗いしで、どいつが余分な一人なのか確かめられないのさ。

 そのとき、たまたま仲間の一人がおれのそばに来た。おれはそいつの耳に口を寄せてさ、「おい、勘定してみろ。一人よけいなのが交じっている」って言ったんだ。そしたらさ、そいつ、甲板の上で作業している連中のほうを見て、そのうち顔を蒼くして、おれの目覗き込んで、なんか言おうとしたんだが、唇が震えて、声が出せんのよ。そのうち、そいつガタガタ震えだして、おれにしがみついてきて、どうしようかって考えたけど、どうにもならないさ。

 そのときだった。ちらっと横顔を向けた男がいて、それが真っ青で、見慣れない顔ってだけでなくって、明らかに、この世のものではないっていう直感があって、「あー、こいつだ」と思ったとたん、その男またあっちを向いてしまって。

 「おい、いたぞ。見つけたぞ」おれにつかまって震えてる男にそう言って、「あいつだ」と振り返ったら、その男消えていた。甲板には正規の六人しかいなかった。「あの男はなんだったんだ。海で死んだ男だろ。亡霊だろな。だけど、悪さはしないで、手伝ってくれたよな」おれは漸く震えの止まった男にそう言った。

 「それから、二度目の援用に出たときも、シケや豪雨に見舞われると、決まって同じことが起こってさ。確かに悪いことはまったくしないから、いいじゃないかって考えには落ち着けんのだ。やっぱり出てきて欲しくない」

 この話は終わったと思ったところ、彼はさらに、

「この沖縄には戦争で死んだ人はたくさんいる。軍部の強制で崖から海に飛びこんで自殺をはかった民間人も少なくない。この種のいやな話が多いのは、実は飛び込みがいちばん多かったといわれる南部の喜屋部岬(きゃんみさき)で、夜間にここを潜るとちょっと怖いものがあるって話だ。


前後の記事

現在はコメントを受け付けておりません。

サブコンテンツ