水中世界への挑戦「ケース9:ヒトデが遭難者の死体に群がる図は想像を超えるものだった」 

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 語り手:沖縄県沖縄市在T氏

ヒトデが遭難者の死体に群がる図は想像を超えるものだった

 自衛隊の仲間うちで「空飛ぶ棺桶」と呼ばれていたのがプロペラ機の「US-1」である。つまりは、よく事故を起こすのみならず、よく落ちる飛行機として我々の頭脳にインプットされもし、それがゆえに我々の胸にしこってもいたという、いわくつきの機体であった。

 その飛行機が編隊を組んで飛行中、一機が十三人の隊員を乗せたまま瀬戸内海で落ちたという報せとともに、沖縄在住の水中処分隊にも捜索協力するように依頼があった。

 実は、私自身はたまたま事情があって、この捜索に加わらなかったから、一部始終は仲間の吉嶺(よしみね)から聞いた事後報告である。

 現場に赴くと、海域の水深は五十から六十メートルと深いことが告げられ、「飛行機のコクピットからボイスレコーダーとブラックボックスを回収、合わせて海底に散乱しているであろう乗組員十三人の遺体を拾ってこい」と指示された。

 吉嶺らは機体の残骸をすぐ発見、ボイスレコーダーとブラックボックスの回収にも難なく成功したが、犠牲者の遺体の捜索、回収に難儀することになった。

 一体、また一体と、船上に揚げはしたが、五体満足な形のものは稀だった。半日かかって欠損だらけではあったが、ともかくも六体を収容するができたが、それ以上が見つからぬまま日が過ぎた。

 深い海での潜水だから、窒素酔いを避けるためにヘリウムガスを使ってはいたが、減圧症のリスクと同居しながらの探察には辛いものがある。

 「おまえら、仲間なんだぞ、同じ自衛隊員が沈んでいるんだぞ」

 上司の言葉に言わずもがなであり、隊員の誰にも焦りがあったけれども、それから数日間にわたる必死の捜索にも拘わらず、一体すら発見することができず、捜索そのものを打ち切らざるを得ないかに思えた矢先のことだった。

 吉嶺の目が水深五十五メートルの海底に畳二畳くらいの盛り上がりを捉えた。奇異な思いにかられながら接近すると、大量のヒトデが折り重なって山のようになっている。はっと思い、ヒトデを手で払いのけた。

よく見ると、そこに人間の足や手がほとんど骨になって、しかもバラバラに置かれている。遭難した隊員らがかぶっていたヘルメットもヒトデの山のなかにあったが、そこに当然なくてはならない頭も顔もない。

 吉嶺はヘルメットをひっくり返して内側を調べてみた。すると、毛髪のついた頭の皮がべたっと付着している。吉嶺はすぐ同行者に合図して協力を請い、二人で群がるヒトデを排除したうえで、その場に食われずに残っていた肉片と骨片のすべてを、どの部分がどの人間に所属するものかは全く判らぬまま用意していた網に入れて回収、船に揚げた。

 吉嶺ら二人の作業をもって全捜索は終了したものの、捜索に協力した処分隊員のうち半分が減圧症にかかり、快癒するまで病院のチャンバー(気圧を変化、調節する部屋)のお世話になったという。

 沖縄への帰路、吉嶺はヒトデが群がっていたおぞましい光景を思い出しながら、なぜヘルメットのなかにもヒトデの山のなかにも頭蓋骨がなかったのかと奇異なものを感じたと語った。ヒトデがいくら悪食とはいえ、人間の頭蓋骨までかじって食えるのか、あるいはヒトデ以外の別の生物の仕業なのか、色々迷いはしたが、所詮、結論が出る問題ではない。

 この件にまつわる不可思議な海中現象はそれから二昔以上が経過した今でも謎のままで、自衛隊の秘蔵記録に残っている。むろん、かかわった隊員らの脳裏にもわだかまっている。

 一般的な話だが、人間の溺死体は比較的きれいな形のまま収容されることが多く、上記したようなケースはきわめて稀だ。僅かに私が聞いている人肉に群がった例としては、甲殻類の伊勢海老が飛び込み自殺した女性に、東京湾でJALのパイロットが突っ込んだときのアナゴが搭乗していた客にという程度である。


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