アメリカ体験記「ガールハントに挑む」

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ロックフェラープラザ

 概して、日本人女性と異なり、日本人の男は白人の女にもてない。

 ニューヨークの支店はロックフェラープラザのなかにあり、私とI君とは上司にクイーンズの道路脇で、車で拾ってもらい、ロックフェラープラザの隣のビルで軽い朝食を上司と一緒に食べることを習慣としていた。

 毎朝のこと、同じ時間帯に、少し離れたテーブルにいつも若い女性がたった一人、食事をしている姿のあることにすぐ気づいた。明らかに白人の女である。

 「よーし、それでは、いっちょハントに挑戦してみるか」と決意した私は、その日、上司にもI君にも告げず、いきなり席を立って移動し、女性の席の隣に腰を下ろすや、「Excuse me」も言わず、いきなり「Are you working around here?」(このあたりで仕事をしてるの?)と尋ねた。

 反応が悪ければ、ハントを即座にあきらめ、自分の席にもどるつもりでいたが、相手は意外に気さくで、「You’re a Japanese, aren’t you?」(あなた、日本人でしょ?)と訊く。「It’s a first time for me to talk to a Japanese. I’m now very much interested in India, but I wanna know about Japan as well」(日本人と話すの初めてだわ。ねぇ、わたしいまインドに凝っているんだけど、日本のことも知りたいのよ)と言う。女はとくに美形というわけではなかったし、醜くもなかったが、やや変わったところが窺えはした。

 「Then, I’ll be happy to be together with you for lunch today. How about your schedule?」(それなら、今日、昼食を一緒にできたら嬉しいんだが、君の予定は?」と問うと、「OK」との返事を耳に、レストランを指定すると、ためらうことなく承知してくれた。

 昼になって指定したレストランに行って待っていると、すぐやって来て、まるで年来の知己といった感じ。これならうまくいくかも知れないと期待しつつ会話に興じたが、女は不意に、

「Do you know ultraism?」(ウルトライズムって知っている?)

「What’s that?」(なんだい、それ)

「I love everything ultra. Otherwise, I can’t be content myself with anything. Understand?」(あたしすべて極端なのが好きなのよ。そうじゃないと、あたしって満足できないの、わかる?)

 いきなりの発言がウルトライズムである。極端とか過剰とか、あるいは過激とかいう意味の言葉だ。話が進むうち、インドに凝っているのもそのウルトライズムのうちにあるらしく、そういう仲間内の会合もあるらしい。

「Won’t you like participating to the party?」(あんた、パーティーに参加しない?)

 との問いにはさすがに参って、

「I’m sorry. I’m not interested in such directions」(ごめんなさい。そういう方向には興味ないんだ)

 私はそう言って断り、すでに食事も終わっていたので、早々に支払いをすまでてオフィスに引き上げた。

 上司からは「どう、その後、デートしたの?」と訊かれたので、ありのままを告げ、「あたりまえの白人女性をハントするのは、やっぱり難しいんでしょうね」とお茶を濁して、この一件は終わりにした。

 とはいえ、忘れがたい思い出の一つではある。一緒に食べたのがアサリの入ったパスタだったことも覚えている。マンハッタンにはアサリパスタの美味しいレストランがあるのだ。

(上の写真はロックフェラープラザ正面)


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