ミューズ/赤坂真理著

ミューズ 赤坂真理

「ミューズ」  赤坂真理(1964年生)著
2000年3月単行本
講談社文庫 2005年6月文庫化初版
野間新人賞受賞作

 この作者の著作に触れるのは3度目だが、はっきりいって新人賞を獲った本書が最も難解。理由の一つは、場所が成城、喜多見、崖線といわれても、知らない人は知らないし、街のあり様が想像を超えること。第二に主人公の女子高生と自宅との関係、父母との関係が不鮮明で、まるでテレビでぼかしを入れているのに酷似する印象、第三に恋の相手に歯科医を選ぶのはいいが、カウンターの内側に受付嬢が脚をおさめるくぼみがあるという部分も全く理解を超えていて、想像がおよばない。カウンターのなかをチェックしたことがないという理由もある。

 だから、くぼみに歯科医とくっついて体をおさめ、キスする場面が、作者が判っているレベルで判る読者はよっぽど歯が悪くて歯医者に通っている人間だけだろう。そのうえ、女子高生の彼女が男の首に舌を這わせるのが好きだという趣味がわからない。首を舐められて性的興奮を覚える男もいないわけではないが、わずかな数であろうし、作者は男女の感ずるポイントや感度について自分の好みを押し付けているのでは。いわんや、女に指を口のなかに入れられて喜ぶ男だって存在はしても僅かな数であろう。首を舐められたり口に指を入れられて喜ぶのは、いずれかといえば、女性の側ではなかろうか。

 若い作家に特有の片仮名文字の氾濫にも辟易、作者の思考がますます理解から遠のいてしまう。面白いとか、惹きつけられるとか、魅惑されるとか、そういう対象には考えにくい。不思議で、奇妙な本とはいえるだろうが。

 作者が意図した省略、飛躍が読み手の理解力を配慮したものでないと、作者の自己満足、ひとりよがりに終わってしまい、なぜ新人賞が獲れたかも不可解で、半世紀後には消えているかも知れない。

 ヴァイブレータ(2004年10月11日書評)の鮮明度に比べ、本書は不可解の極限に読み手を導いてしまう。

 厳しい批評で申し訳なかったが、この作家の将来性を疑うものではない。


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